高齢者の脱水症が怖いのはなぜ?脱水から命を守る工夫と経口補水液の効用を知っておこう

高齢者の暮らし

「水分は足りてますか?」
そう尋ねると、多くの方が「ちゃんと飲んでますよ」と答えます。
しかし。訪問看護や高齢者施設の現場では、「水分を取っていたつもりなのに脱水症になった」という高齢者が少なくありません。

脱水症は、決して真夏の暑い日だけに起こるものではありません。寒い季節でさえも、知らないうちに脱水が進行していることがあるのです。
自分では体調の変化に気づきにくい高齢者にとって、周りの人の「気付き」こそが命を守るカギとなります。

この記事では、介護に関わる40〜60代のご家族に向けて、脱水症の基礎知識から高齢者特有のリスク、そして「経口補水液」の正しい使い方まで、実際の現場経験も交えながら丁寧にご紹介します。

脱水症とは?水分と電解質のバランスが崩れること

脱水症とは、【体の水分と電解質(主にナトリウム)】が足りなくなって、体の働きがうまくいかなくなる状態です。

体の60%が水分で出来ている私たち。体重50kgの人は30kg、40kgの人は24kg、100kgの人に至っては60kgが水分です。私達の体はまるで、水を蓄える「ダム(貯水池)」のようですね。

体を維持し、いのちを守るためにはこれだけの貯水量が必要です。
なので、何らかの原因で水分のバランスが崩れると、脳・腎臓・心臓などに大きな影響を受けてたちまち命の危機を招くのです。

なぜ脱水になるのか?

脱水を引き起こす主な要因を6つ挙げます。

・高温・多湿な環境
・発熱、下痢、嘔吐、怪我などによる出血
・食事や飲水量の不足
・利尿剤・下剤などの服用
・長時間の移動や外出
・体調不良による寝たきり状態

これらの要因がひとつでもあると、脱水はじわじわ進行します。
普段からダムの貯水量が乏しい人が、風邪を引いて高熱が出た場合はどうなるかというと……。

体は気化熱を利用して熱を冷ますために、大量の汗を一気に放出します。
ではどれだけの汗を出すのかといいますと、

熱の高さや環境にもよりますが、発熱時は通常より1000ml以上の水分を汗で放出します。
体重に換算したら1kg超の水分が失われることになります。
発熱した際に、一気に脱水症状が進むのはそのためです。

こんな症状に注意

・口が乾いている・舌が白っぽい
・手足が冷たい
・尿の色が濃い・量が少ない
・ふらつきや立ちくらみ
・微熱が続いている
・ボーっとしていて会話に違和感がある

高齢者の場合、「のどが渇いた」と言わないまま、倦怠感(体がだるい)・元気がない・反応が鈍いという形で脱水が現れるケースが多いです。

高齢者に脱水が多いのはなぜ?

高齢者が脱水を起こしやすい理由には、加齢にともなう体の変化が関係しています。

そもそも体内の水分量が少ない

体内の水分は、内臓や体脂肪内にたくさん貯蔵されているイメージがありますが、体全体の水分の約40%は筋肉に貯蔵されています。筋肉自体が約70%の水分を保有しており、筋肉量が豊富な人ほど「豊かな貯水池」を持っていると言えるでしょう。残念ながら体脂肪は水分を貯蔵する役割は果たしません。

高齢者の体は、若い人に比べて体全体の水分保有量が50%程度と少ないです。加齢とともに筋肉量が減少していることも大いに影響しています。

のどの乾きを感じにくい

脳の視床下部という部分に、脱水を感知する「渇きセンサー」が備わっています。加齢とともにセンサーの感度が低下して、水分不足に気付きにくくなります。

トイレを気にして水分を控える

夜間頻尿や尿失禁を心配して、「あまり飲まないようにしている」という声をよく耳にします。視力の低下、膝や腰の痛みも手伝い、トイレの動作(下着の上げ下ろし、しゃがむ・立つなど)が億劫になることも水分を控える要因になります。

持病や薬の影響

糖尿病、腎疾患、心不全、認知症などは、脱水リスクを高めます。また、これらの治療に用いられる利尿剤・降圧剤・下剤の服用も水分喪失を促します。

感覚・判断力の低下

脱水による体調不良も、「疲れただけ」「年のせい」と思い込んでしまい、家族が気付かないまま重症化するケースもあります

身近な人ができる!脱水のチェックポイント

毎日一緒にいるご家族こそ、変化に気づける立場です。以下のチェックを、あなた自身の健康チェックも兼ねて日常に取り入れてみましょう。
実施する際は、「水分を飲んだ量」「汗や尿が出ているか」「全体的な元気度(普段と比べて)」もあわせて観察することが大切です。

チェック項目観察のポイント
皮膚のハリ手の甲をつまんで戻るスピードを見る(戻りが遅いと脱水)
口腔内の乾燥舌や唇が乾いている、白っぽい
会話の様子反応が遅い、ぼんやりしている
尿の状態色が濃い、回数が少ない
食欲食べる量が少ない、元気がない

水分の飲み方工夫あれこれ

ここまでで、水分不足が体に及ぼす甚大な影響をわかっていただけたと思います。
脱水を予防するには、水分のとり方に工夫が必要です。
特に、自分のことが思うように出来なくなっている高齢者の方は、遠慮やプライドも手伝いなかなか受け入れてもらえないことがあります。

生活動作のお手伝いの中で、「以前は出来ていたことが難しくなった」もどかしい高齢者の気持ちに寄り添うことも大切です。
「水分を控えたくなる気持ちを減らす」介護の工夫は、地域包括センターや医療機関等と相談しつつ、以下の取り組みを行ってみてください。

飲み方のコツ

1日の水分喪失量は、約2500mlと言われています。単純に考えると、1日かけて同じ量の水分をとれば問題ないと思いますが、どうでしょう。飲むことができますか?
「ビールならいくらでも飲める!」という酒豪の方でも、水だとなかなか飲みきれないのではないでしょうか。

大きな問題は小さく分解して取り組みましょう。幸い、人間は体の中で300mlほどの水分を作ることができます。残り2200mlをどうするかです。
一日3食の食事から1000ml摂取をめざします。

残り1200ml。これも小さく分解したら、全て口から飲むことが可能です。

・一気に飲ませず、少しずつこまめに
・起床時・食事前後・入浴前後・寝る前など、タイミングを習慣化
・飲み込みにくいようなら、冷やす、氷にする、ゼリータイプなど試す
・炭酸水など清涼感のあるものもとりいれる

「コツコツ飽きずに毎日続ける」がポイントです。

どうしても飲めない時、飲みたがらない時の代替えアイデア

・冷やしたフルーツゼリー
・塩分の効いた味噌汁やスープ
・果物(スイカ・ぶどうなど)も一部水分補給に
・製氷皿で飲み物を凍らせる、かき氷にする
・経口補水液もしくは経口補水ゼリーを利用する
・先に口腔ケア(歯磨き・義歯洗浄・口すすぎ・うがい)を行う

上記は、訪問看護の現場で実際におこなった事例です。

経口補水液とスポーツドリンクの違い

3度の食事から水分・電解質をまんべんなく取り込み、1200mlの水分をアルコール以外で毎日摂取できていたら、脱水症にはなりにくいです。万が一風邪や下痢などの体調不良に見舞われても、体力が温存されているため、症状悪化を回避できます。

ただし、食事量や回数が減っている、どうしても水分補給を控えてしまう、先に上げた脱水チェックにひとつでも引っかかる高齢者の方は、潜在的に脱水症状をお持ちです。このような方には、経口補水液の利用を勧めます

「スポーツドリンクがあるから安心なのでは?」と思っている方に、経口補水液のことを紹介します。

経口補水液(ORS)とは?

経口補水液とは、「口から補う体液のかわりになるもの」として設計された医療用途の食品のひとつです。水・塩分・糖分がバランスよく含まれ、体内への吸収スピードが速いです。
軽度〜中等度の脱水であれば、点滴と同様の効果があるとも言われています。

市販品としては、大塚製薬「OS-1」AJINOMOTO「アクアソリタ」日本コカ・コーラ「アクエリアスORS」明治「アクアサポート」などがあります。これらは「特別用途食品」の許可マークが添付されています。

スポーツドリンクとの違い

スポーツドリンクはナトリウムなどの塩分は少なく、飲みやすさのため糖分が多く添加されています。
糖尿病リスクのある高齢者には不向きなこともあります。

例えば、日本コカ・コーラ社が販売しているスポーツドリンクの「アクエリアス」と経口補水液の「アクエリアスORS」は、添加物の内容量が異なります。

簡単な比較表を作成しました。数値は日本コカ・コーラ社のHPから抜粋しています。

比較項目経口補水液
「アクエリアスORS」
スポーツドリンク
「アクエリアス」
ナトリウム(塩分)多い (100mlあたり0.249g)少ない (100mlあたり0.1g)
糖分少なめ(100mlあたり2.7g)多い(100mlあたり4.7g)
吸収速度早い普通
目的医療的脱水対策運動時の水分補給

もともと経口補水液は、軽度〜中等度の子どもの脱水症治療【経口補水療法(ORT)】に用いるために設計された病者用食品です。経口補水液は約50年前から、脱水症状で命を落とす子どもたちを点滴の代わりに、安価で簡便、確実に処方できる治療薬として用いられ、多くの命を救ってきた実績があります。この点が、スポーツドリンクとは性質が異なるところです。

しっかり飲食が進み、脱水チェックに問題がなければ、飲む必要はないです。
ただ、発熱や下痢などはいつ起こるかわかりません。脱水もしかりです。

経口補水液は、「塩味がキツイから」「美味しくないから」飲みたくないという高齢者が多いです。
いざ!という時に味になれるためにも、水分補給の際に一日100〜200mlで構いませんので、スポーツドリンクではなく経口補水液を飲むことをおすすめします。
メーカー各社も味付けに工夫を凝らして販売しています。好みのブランドを探しておくのもいいでしょう。

たくさん飲む必要はありません。むしろ、一日500ml以上飲む場合は医師と相談してほしいです。
特に血圧や腎臓にトラブルがある方は、経口補水液の利用に関して主治医と充分相談しておいてください。

看護の現場から

ある80代の一人暮らしの男性。認知症は軽度で、生活動作は問題なくおこなえる方。週1回のデイケアを利用されています。近くに住む娘さん夫婦との関係もよく、娘さんは毎日朝と晩におかずの配達を兼ねて安否確認をされていました。

男性は夏でもエアコンを使わず、汗をかいているのに「寒い」と言って、長袖のまま過ごしていました。娘さん夫婦は心配されていたようですが、茶粥が好きで、自分で茶粥を炊いては娘さんのおかずと梅干しや奈良漬、茄子の糠漬けを毎食欠かさず食べていたようです。食欲もあり、元気にされている姿を見て、「大丈夫だろう」と安心されてました。

しかし。2日前から口数が減り、食事量も減少。「変だな」と、昼間に娘さんが訪れた矢先、男性はふらついて転倒。
運ばれた病院での診断は「軽度の脱水からくる循環不良と認知症の悪化」でした。幸い骨折はされなかったので、脱水治療の点滴と検査のため数日の入院で退院されました。

しばらくしてから娘さんが、「いつもより様子が違うなあと思ったのですが、まさかこんな急に悪くなるとは思いませんでした」と話されました。

娘さんが実感されたとおり、高齢者の脱水は、意外と気付けないもの。
ですので、気付けるための工夫や脱水になりにくい生活習慣が、命を守るためのカギになります。

家庭でできる脱水予防の工夫

「こまめにコツコツ」を合言葉に生活習慣を整えることが、一番簡単で無理のない対策です。

・水やお茶をテーブルにおいて”見える化”
・1日分の水分量を目盛り付きのボトルで管理
・飲んだらシールを貼る「見える記録法」
・エアコンと扇風機の併用で適温をキープ
・会話や笑顔とセットで水分を促す

「飲んで」と命令調にならず、「一緒に飲もう」「美味しいよ」と声かけて、脱水はお互いの問題だと共有すると受け入れてもらいやすいでしょう。

まとめ:あなたの気付きが、大切な命を守る

高齢者の脱水症は静かに進行し、気づいたときには大事に至ることがあります。だからこそ、「なんとなく元気がない」というあなたの気付きを信じてください。そして、

・経口補水液を常備しておく
・日々の観察を習慣にする
・飲むタイミングを生活に組み込む

この3つを意識するだけで、ご家族の健康をぐっと守りやすくなります。

最後に、「何かおかしい」と思ったら、迷わず医療機関へ相談してください。脱水は、早期対応が命を守ります。

日々のケアは大変ですが、あなたの「目」と「関心」が、かけがえのない誰かの命を支えています。

最後までお読みいただきありがとうございました。
暑さが続きますが、どうぞご自愛ください。

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