私は50代。今年からパート看護師として、高齢者施設で働いています。
同じ町内には80代の義父母、県内には70代後半の父母が暮らしており、人が年老いていくとどう変化するのかを日々間近で感じています。
義母との会話から見えた「フレイル」という言葉
ある日のこと。義父母が町主催の健康体操教室から帰ってきて、こう言いました。

「今日ね、ストレッチと一緒に“フレイル”って言葉を習ったのよ。サルコペニアとかロコモとか初めて聞く言葉も出てきて、びっくりしたわ」
「フレイル」、「サルコペニア」、「ロコモ」。
これらの言葉は、健康に関心がある人でも聞き慣れない横文字かもしれません。
「言葉は知っている」という方でも、定義や違いを説明できる人は少ないでしょう。
義母は続けて言いました。

「教室で一緒だった〇〇さんご夫妻がしばらく欠席されてたの。ご主人が風邪をこじらせて肺炎で入院中だとか。私もお父さんも、いつどうなるかわからない年齢になったわ」
この言葉に、私は改めて「健康であること」と「年齢を重ねること」について考えさせられました。
医療や介護の現場でも、「健康」と「元気に暮らせる年数」を混同している方は少なくありません。
ここで重要になってくるのが「健康寿命」という考え方です。
平均寿命と健康寿命の違い
「平均寿命」とは、健康状態に関係なく、平均して何歳まで生きられるかの期待値を示す指標です。
一方「健康寿命」は、世界保健機関(WHO)が2000年に提唱した概念で、平均寿命から寝たきりや認知症などで介護が必要な期間を差し引いたもので、病気や要介護状態にならず、心身ともに自立して過ごせる期間を示します。
📊健康寿命の計算式
「平均寿命」ー「介護が必要な期間」=「健康寿命(自立して生活できる期間)」
📊介護が必要な期間の計算式
「平均寿命」ー「健康寿命」=「介護が必要な期間」
厚生労働省の最新データ「健康寿命の令和4年値について(2022年)」によると、
- 平均寿命:男性81.05歳・女性87.09歳
- 健康寿命:男性72.68歳・女性75.38歳
都道府県別の健康寿命ランキングの上位5県を見てみると以下の通りです。
順位 | 男性(年齢) | 女性(年齢) |
1位 | 静岡県 73.75 | 静岡県 76.68 |
2位 | 石川県 73.60 | 山口県 76.43 |
3位 | 山梨県 73.47 | 岐阜県 76.43 |
4位 | 群馬県 73.37 | 山梨県 76.20 |
5位 | 神奈川県 73.28 | 宮崎県 76.13 |
補足ですが、私が暮らす奈良県は男性が12位で73.00歳、女性は42位で74.76歳でした。
つまり、平均寿命と健康寿命の差は、男性で約9年、女性で約12年もあります。
この期間は「生活に何らかの制限がある状態」で過ごす可能性が高いのです。
同じ「80歳」でも、
- 元気に外出し、友人と会い、趣味を楽しむ人
- ベッドで寝たきりになり、食事や排泄も介助が必要な人
その違いは「健康寿命」が大きく関わっています。
健康寿命を延ばすメリット
健康寿命を延ばすことは、本人だけでなく家族や社会にとってメリットがあります。
本人にとって
- やりたいことを長く楽しめる
- 趣味や旅行、孫との時間を大切にできる
家族にとって
- 介護の負担が減る
- 一緒に過ごす時間が前向きで明るいものになる
社会にとって
- 医療・介護費を抑えられる
- 持続可能な社会保障への貢献につながる
まさに「元気に長生き」は、誰にとってもプラスなのです。

健康寿命を支える3つの柱
1. 栄養
- バランスの取れた食事:好きなものだけでなく、多様な食品をとりいれる「まごわやさしい」
- たんぱく質を意識的に摂取:肉類が苦手なら、魚や卵、豆類を
- 脱水を防ぐための水分補給:喉の渇きを感じにくいので、時間を決めて飲む
若い頃と違って新陳代謝が緩やかになると、食事や水分量が減ってきます。
私は50代になってから、こってりした焼肉よりもしゃぶしゃぶをおいしく感じるようになりました。
夜遅く食べると必ず翌朝は胸焼け。酷暑を越えてからは、水分をあまりとらなくても平気に……。
これは「体が老化しているサイン」でもあります。
高齢の両親も、外食先では食べきれず残すようになりました。
摂取量が減るのは自然なこと。
だからこそ、「いつ・何を・どのように・どれくらい」を意識して食べることが大切です。
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2. 運動
- 筋トレやスクワットで下肢筋力を維持
- ストレッチで柔軟性・血行を促進
- 軽いウォーキングなどの有酸素運動で持久力・認知機能を維持
運動と聞くと、ジョギングや水泳、ジムでトレーニングなどを連想しがちです。
90代でマラソンのシニア記録を更新!という快挙を達成されている健脚な方もいますが、私はそんな快挙は成し遂げられません。
できることをコツコツと
これが、運動のポイントです。朝散歩、ラジオ体操はもちろん、買い物の荷物を背負って歩く、床の雑巾がけ、階段の昇り降りも立派な全身運動です。
その日の体調に合わせて無理なく続けることが大切です。
3. 社会参加
- 地域の体操教室やサークルへの参加:県や市町村開催の教室は、低コストで参加できるものが多い
- 友人や家族との交流:身近なところから
- ボランティアや趣味を通じたつながり:さまざまな年齢や性別の方と交流できる可能性あり
孤立を防ぎ、心の健康を保つことも「健康寿命」には欠かせません。
つい、「今あるものだけ」の関係でことを済ませがちですが、人とのつながりが広がると、自然と新しい情報や経験が増えて「自己成長」にもつながります。
自分自身が培ってきた経験が、人と関わることで役に立つ場面に出会うこともあります。
お互い様の輪が広がることは、やがて自分を助けることにもつながるでしょう。
フレイルとの関係
健康寿命を語るときに欠かせないのが「フレイル」という概念です。
日本老年医学会によると、
フレイルとは、加齢にともなって心身の活力が低下し、日常生活でサポートが必要となる「要介護状態」になる危険性が高まった状態
(荒井秀典、フレイルの意義、日老医誌、2014)
フレイルには3つの側面があります。
- 身体的フレイル:筋力・持久力の低下
- 精神的フレイル:うつ・認知機能の低下
- 社会的フレイル:人とのつながりの減少
この3つが組み合わさることで、要介護へ移行するリスクが高まります。
しかしフレイルは予防すれば改善できるのが特徴です。
栄養・運動・社会参加を意識することで、フレイルから健康な状態に戻ることも可能です。
まとめ:50代から始める「健康寿命」と「フレイル予防」
「健康寿命を延ばす=フレイルを防ぐ」
この考え方は、プレ高齢者の私自身にとっても他人事ではありません。
- プレ高齢者(50代〜60代前半)→今から習慣を見直せば十分間に合う
- 高齢者(65歳以上)→改善の努力によってフレイルを予防・改善できる
人生100年時代。
「生きている年数」だけでなく、「元気で過ごせる年数」をどう伸ばすかが私たちの課題です。
🍀次回予告:「栄養編」🍀
日常の食事でできる「フレイル予防」の具体的な食事・水分のコツを紹介します。
続きも読んでくださいね。
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