「介護職は健康な爪なら爪切りをしてよい」——そう言われたことがある方は多いと思います。
でも正直、「どんな爪が健康な爪なの?」ってなりませんか?
爪切りは毎日自分でやっていること。
年配のベテラン介護士さんの中には、「今まで何十年も切ってきたのに、なんで今さら?」と戸惑っている方もいます。気持ちはよく分かります。
実は看護師の私も、同じでした。伸びた爪は不潔だし、ケガの原因になるし、何より「身なりが整っていない」ことは利用者さんの自尊心にも影響する。だから、深く考えずに切ってきました。
でも、爪切りで利用者さんにケガをさせてしまったことをきっかけに、私は爪切りという技術を勉強し直しました。
🔗勉強のやり直しになったきっかけを書いた記事はこちら👉️
爪の構造を知ると「なぜ難しいか」が分かる
爪は固くてツヤツヤしていますが、もとはケラチンというタンパク質でできた「皮膚の一部」です。
指先の神経と血管を外圧から守り、「安全かどうか」を探る感覚器として、小さいながらも最前線で私たちの身体を守ってくれています。
そして、物をつかむ・つまむ動作を助けたり、床を踏みしめて蹴り出す力を伝えて歩く手伝いをしてくれているのです。
爪は爪床・爪母・爪甲の3つからできています。
- 爪甲(そうこう):いわゆる「爪」の部分。ケラチンの塊で硬い。亀の甲羅と同じ役割
- 爪床(そうしょう):爪甲の下にある皮膚。爪に栄養と血液を供給。あのきれいなピンク色は爪床の血管の色
- 爪母(そうぼ):文字通り、爪を生み育てる場所
「深爪はダメ」と言われたことがある方は多いと思います。それは、深く切ることで爪床と爪母を傷つけてしまうからなんです。
こんな爪は介護職が切ってはいけない
介護の現場でよく目にする白癬爪・肥厚爪・巻き爪は、異常な爪の代表選手です。この3大爪は、介護士が爪切りをしてはいけない爪です。
🔗介護士の爪切りに関するルールについて説明した記事はこちら👉️

【白癬爪】
白癬爪とは、水虫菌(白癬菌)に侵されて変形した爪のこと。
特徴はこんな感じです。
- 爪が白く濁っている
- 表面がザラザラ・ボロボロしている
- 爪と皮膚の間に白いモロモロが溜まっている
- 独特の臭いがある
- 爪の形が変形している
「あ、これ見たことある!」という方、多いのではないでしょうか。
これまでなら、靴下や服に引っかからないようにと、深く考えずに切っていたかもしれません。
今日からは、切らずに「施設の看護師や医師に報告」してください。
なぜかというと、白癬爪を切ると爪の粉が飛び散り、爪切りの消毒が不十分だと白癬菌をそのまままき散らしてしまうからです。
他の爪、そして他の利用者さんへの感染リスクが一気に高まります。
【肥厚爪】
分厚く固まった肥厚爪。これも介護現場によくある爪の一種です。
この肥厚爪も「異常な爪」のひとつで、介護職が切ってはいけない爪です。
どうして高齢者にはこんな爪が多いのでしょうか。
私が普段見ていて感じるのは、車椅子やベッドで過ごす時間が長い「歩行困難な高齢者」が、この爪を持っているなと。皆さんはどう思われますか?
肥厚爪は、ほとんどが足の爪に起こります。
足の爪には、床からの圧力を受け止める役割があります。指先が上手く力を分散させて歩けるのは、爪のおかげ。
手の爪より足の爪が伸びにくいのは、毎日床からの圧力と戦ってくれているからです。
歩かなくなると、床からの圧力がなくなり、爪は仕事を失います。
仕事を失った足の爪は伸び放題になり、古い爪甲が積み重なって地層のような分厚く硬い構造に変わっていきます。
こうなると、普通の爪切りでは太刀打ちできません。無理に切ろうとすると爪床を傷つけ、出血・感染のリスクがあります。看護師や医師に相談してください。
【巻き爪】
異常な爪、第3弾。ラスボスは巻き爪です。
巻き爪も高齢者によく見られる爪です。足の爪がほとんどですが、手の爪に巻き爪をお持ちの方も一部いらっしゃいます。
本来、爪はなだらかで平らな形状をしています。上からの力(靴・外圧)と下からの力(歩行)のバランスで、その形を保っています。
しかし、どちらかの力が弱くなると、爪はバランスを崩し、圧力の弱い方へグングン巻いていきます。
皮膚に爪が食い込むと、歩くたびに激痛。食い込んだ部分は炎症を起こし、感染リスクも高まります。
「巻き爪持ち」の方、意外と多いのではないでしょうか。巻き爪は手入れの仕方を間違えると症状を悪化させやすいのが厄介なところ。
見つけ次第、看護師や医師に報告してください。
発見したときの正しい報告の仕方
この3大異常爪(白癬爪・肥厚爪・巻き爪)を見つけたとき、介護職のあなたがまず取るべき行動は、
「誰に・何を・どのタイミングで」報告するかです。
① 誰に
施設に看護師や医師が常駐しているなら、直接報告します。
不在の場合は直属の上司を通じて、定期訪問や往診のタイミングで伝えてもらいましょう。
② 何を
- 誰の、どの指の爪が、どのように変形しているか
- いつ気づいたか
- どんな問題があるか(例:隣の指に当たって痛がっている、など)
見たまま・気づいたままを言葉にするだけでOKです。診断は看護師・医師がします。
③ どのタイミングで
看護師・医師が来たタイミングで直接。
看護師や医師が常駐でない場合は、上司に口頭報告+記録に残すことを心がけてください。
「言った言わない」を防ぐためにも記録は必ずのこしましょう。
介護職ができる正しいケアの範囲
3大異常爪は、看護師や医師に対応を任せてください。
では、現場のあなたにできること。それは「健康な爪をこまめに・計画的に手入れする」ことです。
先にお伝えした通り、爪は爪甲・爪床・爪母の3つからできています。とくに、爪床と爪母は爪を育てるために欠かせない場所。
傷つけると爪が正常に生えなくなるリスクがあり、爪を失うと立位を保つ・歩行にも影響が出ます。
爪切りの際に守ってほしいことは3つです。
- 深爪をしない:指先より少し出るくらいの長さを保つ。短く切るほど良いわけではありません。
- 爪先は平行に切る:丸く切ると端が皮膚に食い込み、巻き爪・陥入爪の原因になります。
- 両角はやすりで整える:角を滑らかに丸く整えることで、引っかかりや皮膚への刺激を防ぎます。
まとめ
これまで利用者さんのさまざまな爪を手入れされてきたことでしょう。きれいに整えてあげたい——その気持ちは、相手を思いやる介護の原点です。
でも一方で、利用者さんや家族の要望に応えようとした結果、ケア中にケガをさせてしまってうろたえたこと、痛い思いをさせてしまって自分のケアに自信を持てなくなったこと——ありませんか?
すべてを「やってあげる」のではなく、できることとできないことの根拠を知ること。正しいやり方をアップデートすること。それが「利用者さんと自分を守ること」に繋がります。
「断る」は冷たいケアではありません。根拠を持って断ることが、最も利用者さんを守るケアです。

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