以前、爪切りで利用者さんを傷つけてしまったことがあります。
私は看護師です。事故報告書を書き、上司に怒られ、施設長に詰められました。
それでも私は爪切りをやめませんでした。
なぜなら、誰かがやらなければいけないからです。
この記事は、きれいごとを書くつもりはありません。現場で起きたこと、感じたこと、そして今も変わらない現実を、看護師として正直にお伝えします。
ミスした時に起きること
肥厚した白癬爪が伸びすぎて靴下が履かせにくく、靴を履くと爪で皮膚が圧迫されて痛みを訴える利用者さんがいました。
毎日足の爪には軟膏は塗られていましたが、爪は伸びていても手入れはされず報告も上がっていませんでした。
前回わたしが行なった爪切りから4か月が経過していました。
忙しい介護現場では、爪の状態が悪化していても「いまはちょっと無理」と後回しになりがちです。
これは特別な話ではなく、介護施設や在宅現場で日常的に起きている現実です。
ヤスリがけするには伸びすぎており、適切な道具(ニッパー)が施設になかったため、施設の爪切りで少しずつ丁寧に切っていました(切るというより「砕く」)。
見えやすい環境で、時間をかけて。
ですが、最後の1本を切る時に指先を1ミリほど挟んでしまい、出血させてしまいました。
出血はすぐに止まりましたが、かなり痛い思いをさせてしまいました。
私の技量不足です。反省しています。
その後の流れはこうです
- 圧迫止血・消毒・見守りを繰り返す
- 先輩に報告・一緒に対処
- 当日:傷の手当・事故報告書作成
- 翌日(私の休日):家族報告とケア継続を同僚に引き継ぎ
- 休み明け:上司と施設長から事実確認と注意指導を受ける
利用者さんの爪切りを行なう今も、あの時の情景を思い出して気を引き締めながら行なっています。
爪切りを放置するとどうなるか
高齢者の皮膚は薄く、少しの力でも傷つきやすい状態です。特に白癬(水虫)のある爪は硬く変形しており、通常の爪切りでは対応が難しい。
それでも「伸びているから切らなければ」という現場のプレッシャーは常にあります。
爪が伸びすぎると
- 靴下が履かせにくくなる
- 靴に当たって痛みが出る
- 巻き爪・変形が進む
- 膝や腰への負担が増える
- 歩きづらくなり転倒リスクが上がる
放置すること、そのものがリスクなのです。
🔗高齢者に多い爪トラブルの種類はこちら👉️

ミスを防ぐ確認ポイント
まず爪切りを「やっていい爪」と「やってはいけない爪」とに見極めることが最重要です。
⭕️介護職でも対応可能な「やっていい爪」
- 爪に異常がない
- 皮膚が健全
- 基礎疾患がない(糖尿病・透析・抗凝固薬服用など)
❌ 医療職または皮膚科受診が必要な「やってはいけない爪」
- 白癬爪・変形爪
- 浮腫のある足
- 出血しやすい状態
🔗介護職の爪切りが医療行為になる条件は、こちらで詳しく解説しています👉️

道具も重要です。通常の爪切りより、ニッパー型爪切りや電動爪ヤスリの方が白癬爪などの硬い爪に対応しやすいです。
ただし使い慣れていない場合は無理をしないことも大切です。
道具の使い方は、次のセクションで詳しく触れます。
もしミスしたらすぐやること
ミスをした時、「隠したい」という気持ちが一瞬よぎることがあるかもしれません。でも絶対に隠してはいけません。
すぐやること
- 圧迫止血・消毒(場合によっては受診)
- 先輩・上司に即報告
- 事故報告書の作成
- 家族への報告とお詫び(施設を通じて、上司・相談員と連携して行なう)
- ケアの引き継ぎと継続
小さな傷でも必ず報告する。これが利用者さんを守り、自分を守ることにつながります。
事故報告書は「罰」ではありません。「同じミスを繰り返さないための記録」です。
施設として取り組むべきこと
ミスが起きた後、私はこう詰められました。「老眼鏡が必要なのでは」「慌ててたのでは」「環境を整えてなかったんだろう」「どうして医師や、上手な人へ依頼しなかったのか」と。
でも本当に問うべきは、こういうことではないでしょうか。
- なぜ適切な道具が施設になかったのか
- なぜ一人でやらせる状況だったのか
- なぜ「ケアが必要だ」という状況が置いてきぼりだったのか
4か月の間、多くのスタッフがこの方のケアに関わっていたはずです。
介護士も看護師も人間です。得意・不得意があります。
しかし、「できないから」といって全部上手な人や医師に任せるのは解決になりません。
個人を責める前に、「ケアが手付かずで状態が悪化する」状況を生まないために、
毎日のケアの中で改善できることを見える化する。
そこが、今回の問題の根本であり、施設や介護現場で取り組むべきことだとわたしは考えています。
施設として取り組んでほしいこと:
①道具を整える
苦手な人でも50〜60%の完成度でできる道具を施設として用意することが大切です。
ニッパーが怖ければ直線刃型の爪切りや洗浄が可能なヤスリ、電動爪ヤスリの導入も選択肢のひとつです。
🔗電動爪ヤスリの選び方・使い方はこちら👉️

現状、自費で電動爪ヤスリやニッパーを買って、個人でケアをしているベテランスタッフもいます。
その責任感は本当に素晴らしい。
でも、その人が休んだ瞬間に誰もケアできなくなる。それが属人化の怖さです。
道具は個人のものではなく、施設全体の財産として整備されるべきです。
②勉強会・研修で全員に共有する
道具が揃っても、使い方を知らなければ意味がありません。「ニッパーの持ち方」「やっていい爪・ダメな爪の見極め方」「ミスした時の対応手順」を勉強会で全員が学ぶ仕組みが必要です。
知識と道具がセットで揃って初めて、属人化から脱却できます。特定の誰かに頼らなくても、チーム全員でケアを支え合える環境を目指したいのです。
③ケアの見える化
誰がいつケアしたか、爪の状態はどうかを記録・共有する仕組みを作る。「気づいたらずっと手入れされていなかった」状況をなくすことが大切です。
ケア記録に「爪切り実施日・爪の状態・次回の目安」を一言書き加えるだけでも、引き継ぎがスムーズになります。
ミスした私は責められた。でも手入れできていない足は責められない
あれから2ヶ月が経ちました。
私がミスをした利用者さんの反対の足。今も手入れができていません。
忙しい現場では、ケアが後回しになることがあります。悪意があるわけではない。でも気づけば2ヶ月、手入れできていない足がそこにある。一人だけじゃなく、何人も。
ミスをした人だけが責められて、ケアが行き届かない現実は誰にも責められない。
それでいいのか?と私は思うのです。
失敗はしてもらいたくない。けど、失敗できない環境は属人化の温床でもある。
マンパワーが慢性的に不足している介護現場で、「できる人しか許されない」環境は果たして、
働きやすく人が定着する職場と言えるでしょうか。
「やって失敗するより、やらない方が安全」という空気が現場に漂い始めたとしたら、それは利用者さんにとって本当に安全な環境なのかと。
まとめ
私がケアをする時、いつもこう自問しています。「いつか自分も人の世話に完全に頼る立場になるかもしれない。自分の親がここでお世話になるかもしれない。今の自分の仕事ぶりを、未来の自分や親に安心して勧められるかな?」
爪切りひとつも、その問いの答えのひとつです。
ミスを恐れて逃げることは簡単です。でも逃げた先に、安心できるケアはありません。
正しく知って、正しい道具で、仕組みを整えて、みんなで取り組む。
それが職員にも入居者にもゆとりのある環境につながると、私は信じています。
「私だけのせいじゃない」と感じている介護士・看護師の方に、この記事が届いてほしい。
そして「やって失敗するより、やらない方が安全」という空気を、一緒に変えていきたいと思っています。
🔗足のケアをもっと知りたい方へ



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